母心

愛媛県立中央病院入院中の1991年に54才で亡くなった母の日記です。

1991年8月13日

夏になると思い出します。今もくやしく思い出す。とうとう持って来てくれなかった。家にも海にも。それが悔しく情けないのです。いつか忘れたけど、海に子供たちを泳ぎに連れて来ている時海の中へ入り伝え歩きに泳いでたら一人の紳士が近付いてきます。馴れ馴れしいなと心の中で思った。今思えば私を馬鹿にしていたのね。気の良い人に映ったのでしょう。それが主人を知っていると言うのでその言葉を信じました。自転車で来てバス待ちしているという。それがお金がなくて困っているので貸して欲しいという。自転車近くの家に預けているという。バスで帰る。大変困っている。助けて欲しいという。私は何もかも信じて早速子供の所へ行き財布置いているので時夫や美智子にも言ってあげました。でも明日になってもしや手紙書いて私の住所知っているからというでますます信じました。それがとうとう2、3日待っても自宅にも海水浴場にも来なかった。騙されました。人を助けてあげたのだからと自分の中で思いました。あの人が助かったのならそれで良いと何度も心に言い聞かせました。悔しくてまたも騙し取られて悲しいです。最初から騙しとってやると思ってたんでしょう。時夫君も美智子も言ってた。今頃その人どうしているのでしょうか。私はお人好しで騙されるたちでしょう。気にし屋でお人好し、情けないですね。騙されるより騙す人かわいそうな人です。あの時の2000円返って来たら嬉しいがまさかそんな事できるわけないでしょう。

もう一つは20年くらい前引っ越して来てたのです。夕暮れ時炊事してたら、加藤さんです。町に行きたいが金ない。まさか自転車で行けないしで困っている。2000円明日持って来るからというのでそれを信じて2000円貸したのです。でも明日と言ってたのに返しに来なかった。あれ程信じたのにがっかり。またも皮肉に旅館でアルバイトしてたからあったのです。あの時は変わって結婚して来たのだった。騙すつもりはさらさらないのですと言ってた。今更返すと差し出すので私は祝のつもりであげますよと、もういらないとあげた。でも近所で人から騙し取るなんて、馬鹿でお人好しの女なのでしょう。本当に今頃何をしてるのだろう。忘れようと思う。二度と騙すよりも騙せない人にがよろしいでしょうね。色々なことのある世の中で人を騙すなんて。加藤さん、もう二度と人から騙し取る事しないでね。

トイレより戻りしなベッドへ上がろうとしている時にまたもよろけて久君に支えてもらってようやくベッドの上に上がりました。どうしてかしらね。随分足が弱っている上によろけて転んでおしり売って頭打ち、そのせいか右足がひどく痛みます。早く良くなって欲しいです。早く元気になって帰りたいですよ。どんな治療するのかしら。心配になります。

菊池先生、心配掛けて申し訳ないので私の事情を書いてあげました。いいですと言ってくれた。嬉しいです。痛み止め注射してくれる。少し量増やしたが違いますか。やはり私を思ってくれているのですね。どうしてなのか私にはわからない。

10時25分痛み止め薬注入する。西蔭先生診察に来る。1時半レントゲン2ツ取り車に乗り看護婦さんに連れて行ってもらう。心配だ。起き立ちで胸が詰まりそうで困ってる時で弱りました。悲しいね。2時30分なっても来ない。久君に連れて来てもらったら来れたのに。夫は日勤だったのか。一人淋しく心細くていかなかった。弱虫になって少しでも困ったちゃんになったら魔が打ち寄せる。この間のように心の緩みに隙間あったと思います。つかまろうとしてる時よろけて頭打つしおしり床で打つし悲しい出来事。今は余計痛みます。またもトイレより戻り台の上に上がろうとしている時に魔のいたずらかよろけました。残念。慎重にゆっくりして考える。